オジロトウネン、トウネン
4月の初め、シマアジが居るというので見に行くと、見慣れぬ小さなシギが池の端っこで飛び回っていた。枯れた植物が積み重なり島のようになっている”陸地”の上をチョコチョコと歩き廻り、餌を探している。
時期的にみて、大きさからトウネン?と思ったが、昨年の今頃出会ったトウネンは既に夏羽の色だったことを思い出す。こちらは、薄い灰褐色とずいぶん地味である。
取りあえず、できるだけ近づき写真を撮るしかない。
何枚か撮って気付いたのは、脚の色。オレンジ掛かった黄色で、かなり鮮やかな色だ。
撮った写真をもとに帰って調べてみると、オジロトウネンだと分かった。トウネンとは脚の色が違う。昨年初めて、一羽だけ出会えた鳥だった。そう言えばこんな鳥だったような・・・と。
それから数日後、セイタカシギやタカブシギを撮って帰る途中、水を張った田植え前の田んぼに小さなシギを発見。こちらは鮮やかな朱掛かった茶色で、肉眼でもトウネン夏羽と分かった。
小さなシギで、少し遠いとなかなか撮れない。静かに車を止め、近づいてくれるのを待つしかない。
小さな鳥の正面からの写真は、なかなか顔にフォーカスが合ってくれない。胸が綺麗に色づき、鮮やかな夏羽。少し赤味のある夕陽が当たり、さらに朱が掛かって見える。
水のある所と泥の所、水田にできた明暗を背景に横から陽を受けるトウネン。なかなか味のある景色になった。撮っていて、昨年も夕陽の海岸で10羽ばかりのトウネンの群れを撮ったことを思いだした。かなり近づけたがフォーカスがばっちりの写真が少なく、保存したまま放置していた。そして昨年末、PCを入替えた時に何故か外付HDが破損して全ての写真と共に消え去った。トウネンとの昨年の出会いは記憶の中に残るのみだ。
ファインダーを覗いてそんなことを思い、昨年分を取り戻すように多くの写真を撮ってしまった。一羽のトウネンを何枚撮っても仕方ないのに・・と、後でつぶやく。どうしてHDを破損してしまったのか、もっと注意すべきだった、と悔いた時の気持ちが蘇って来たのだ。そうそう、トウネンの脚はやはり黒。オジロトウネンとは脚の色で明確に区別できる。図鑑の記述を再確認した。
ツルシギ(夏羽)
4月が終わる頃、数十羽のカラスが田植えの始まった干拓のあちこちに屯していた。干拓の奥の方にもカラスが20羽近く見え、その奥に黒い鳥が水の中を歩いていたが、近づくまでは「あれもカラスだろう」と思っていた。念のためにと思って双眼鏡で覗くと「明らかにカラスとは違う」、シギ類の細長い嘴と長い脚が見えた。
慌て車を進めつつ「あんな全身黒いシギなどまだ見たこと無い、はたして何だろうか?」と考える。頭の中で図鑑の絵をいろいろとめくるうちに、ふと思い当たったのがツルシギ。図鑑で見た黒い夏羽のツルシギの写真が思い浮かぶ。その時、「黒い夏羽のツルシギ」とは実際どんな感じに見えるのか?と思ったことを覚えていた。「ツルシギかも知れない」とひそかに期待しつつ、さらに近付くと双眼鏡で確認。
全身黒に多くの白い斑点、根本近くだけ赤い嘴。図鑑のツルシギ夏羽そのものだった。
3羽のツルシギは水田の中を散らばったり集まったりして、餌を探し歩く。
しかし、3羽が互いに近づいてくると何故かくっつきあって一塊りとなり、しばらくの間は揃って同一方向に競うように歩き始める。
冬羽のツルシギは複数での群れに出会ったことが無く、そんな動きがツルシギのいつもの習性なのかどうかは分からない。しかし、しばらくその様子を見ていて滑稽に思え、印象的だった。
ふとカラスか何かに驚き飛び立ったが、それも3羽揃ってである。翼を広げると、裏側の白さが際立つ。翼の先の方は少し色が薄く、茶色く見えた。
ツルシギたちは水田の上を低く飛び、30mくらい離れたところに着地する。
種類によってはバラバラに離れて着地するシギもいると思うのだが、このツルシギたちはやはり近くにかたまって舞い降りた。初めて訪れた見知らぬ広い干拓の真ん中で、どこか怖がってくっつき合っているようにも見えた。
ツルシギ(冬羽)
4月の初め頃、田んぼの間の小さな水路に1羽のツルシギが降りていた。北へと向かう渡の途中だろう、まだ冬羽。脚が朱(あか)いのが特徴。
毎年、1羽2羽程度を見かけたという情報を聞くのだが、20m以内でゆっくりと撮影できる機会はあまり無かった。やっと今年は、じっくり撮影する機会に出会えた。
餌を探して水の中を歩き回るが、
水の中で何を探しているのか。
結構深い所までも入っていく。
そして、しばらく水の中で餌を探して歩き回った。しばらく歩き回ると、水から出てしばし休憩。
浅い水路の水にその姿が映る。
カメラマンを気にもせず、のんびりと羽繕いし、続いて丹念に羽毛に油を塗りつけた。この個体は3・4日この辺りに居たのだと思うが、次の週には北へと旅立ち姿を消した。
セイタカシギ飛翔
何度もセイタカシギに出会うと、優雅な飛翔姿も何度か披露してくれた。
食餌中に近づいて来たカラスを嫌がって飛ぶことは何度もあった。比べるとカラスの体の方が倍くらいあるので、やはり近づかれると怖いのだろう。
見ていると、カラスの方はわざと嫌がらせをしているように見えることもある。田んぼの真ん中で休むセイタカシギのグループに向かって、何度も低空飛行で横切って見たりすることもあった。
そんな時のセイタカシギは、カラスを避けて飛び上がり田んぼの反対側へと着地。
数羽が並んで着地すると、連続コマ撮り写真のようにも見える。なぜか同じ軌跡を辿り、前の個体のすぐ後ろに降りたがるようだ。
今度はコンクリートに並んでいた9羽がアオアシシギに驚いて一斉に飛び立った。5m以内に9羽ほども詰まっていたので、同じ方向には飛び出せず、めいめい異なる方向に散開して飛び出す。アオアシシギもまた、別方向に。
でも飛び出すとすぐ、同じ方向へと揃え軌道を揃える。
そして隊列を整えると、池を大きくぐるりと周って元の位置へ戻って来た。
綺麗に並ぶのも良いが、ちょっと前が詰まっているような気がする。狭い所で前の個体との間隔は1mも無い。
あれあれ、9羽も居てこんな狭い場所に同時に降りられるのか?と思って見ていたが、
特に混乱もなく、また狭い所に綺麗に並んで着地終了。知らぬ間に、アオアシシギまで離れて留まっていた。
晴れた空の下、白と黒の姿は目立ってしまうのか、集まって休むセイタカシギがハヤブサに襲われた。セイタカシギも気付いて素早く飛び上がり、今度は見る見るうちに高く舞い上がる。第一撃をかわされたハヤブサが、舞い上がった群れの最後尾に遅れた一羽を追いかけた。あっという間に追いつくと思いきや意外にセイタカシギが早いのか、なかなか距離は縮まらずハヤブサは途中で追うのを諦め違う方向へと去って行った。
セイタカシギたちはそのまま高度を上げながら、見る間に遠く小さく飛び去って行く。見るからに華奢なセイタカシギ、小さな体に長い首と脚、その割に長く広い翼を持っていることで、セイタカシギの飛行能力は思ったよりもかなり高いのだと感じた。
セイタカシギの水浴び
水田にセイタカシギが座り込んでいた。いつも長い脚で歩き回っている姿しか見たことが無かったので、一瞬、怪我でもしたのかと思った。数日前に、腹部に大怪我を負ってふらふらと元気なく佇んでいるセイタカシギを見たことがあったし、ハヤブサがセイタカシギの群れを襲う瞬間も目撃したこともある。立てないほど弱ってるのだろうか?
しばらく見ていると、座っていたのが立ち上がり、交替に隣で立っていたセイタカシギが座り込む。どうやら、怪我ではなさそうだ。晴れ上がった日の昼過ぎでもあり、セイタカシギ達も暑さに耐えきれず、水に座り込んで体を冷やしているのだろうか? そんなことを考えながら、ゆっくりと近づいた。すると、ただ座り込んでいるのではなく、双眼鏡で見るとセイタカシギは時々翼を震わせ、水飛沫を飛び散らせていた。
ふうん、セイタカシギも水浴びをするんだ。考えてみれば当然でもあるが、あの長い脚を折りたたみ浅い水にペタリと座り込むとは考えたことがなかった。脚を折りたたむその動作は、何となくぎこちなさそうに見える。座り込んだまま翼をだらりと水に広げたセイタカシギは、そのまま水中で翼を動かして、まるで水洗いでもしているかの様子。
羽根の洗濯が終わると立ち上がり、水を切るために思い切り翼を広げた。
そしてそのまま、後ろへ、前へ、と思い切り翼を羽搏かせ水滴を振り飛ばした。
さらにもう一振り。翼を思い切り上下に動かした時、細い体がフワッと浮き上がった。
この春は、この干拓の水田では毎日のように、延べで50羽以上のセイタカシギに出会ったのだが、水浴びを見たのはこの日この時のみ。車を止めた30分足らずの間に、数羽のセイタカシギが次々に座り込んで水浴びを披露してくれた。中には、浅い水に体を出来るだけ多く浸けようと水中に横倒しになり、溺れてるかのようにもがくものも。
やはりあの午後はセイタカシギにも暑くてやりきれなかったのだろう、と思うことにした。
セイタカシギ
4月中旬から5月初旬にかけてセイタカシギが通り過ぎる。
今年は、この辺りにはやけに多くのセイタカシギがやって来た。いつもは2~3羽に出会えるだけでも嬉しい気分になるのだが、今年は延べ70羽にもなり「またセイタカシギか、ここにもセイタカシギが・・」と思うほどに多かった。もちろん、日をまたぎ重複して数えたものを含むが、それでも40個体以上には出会っていると思われる。
水が張られた干拓の水田でよく出会うが、今年は一つの田に4~5羽は当たり前、多い時には12羽のセイタカシギが一度に一つの田を歩き回っていたこともあった。一羽だけでも優雅さを感じさせるセイタカシギだが、数が多くなると、一段と優雅さが増、さながら鳥のバレエ団が舞い降りたような雰囲気である。野鳥に興味を持ち始めたばかりでこのシギの存在も知らぬ頃、近くの沼地で偶然に出会った時には、一瞬造り物が置いてあるかと疑ったものだ。なんと脚の長い鳥、それも、曲げると今にも折れそうに細い脚。こんな鳥が、毎年知らぬ間にすぐ近くの田や沼を訪れ、通り過ぎていたとは。
どちらかというと田植え前の、代掻きが終わったばかりの田が好みらしい。餌が多く見つかるのだろう。30分ほど歩き回ると、互いに集り、一本足で休みを取る。
まだ餌取に夢中の1羽以外は、明るい陽射しの中でしばらく仮眠中。
綺麗に撮るには、もちろん晴れた日、太陽の角度も風の具合も重要である。近くで見るとセイタカシギの眼は赤く、黒い瞳がはっきり見える。
優雅な足取りで水田をゆっくりと歩き廻り、水に嘴を突き刺して餌を捕まえた。はっきりと見えないが、捕まったのは水中にいる何かの虫のように見えた。
今年は出会う個体数も回数も多く、ゆっくりと撮影できる機会もあった。休憩しながら時々羽繕いしたり、頭や首筋を掻く様子も。長い脚を折り曲げて頭や首筋を掻く様子は、何となく危なっかしく見えてしまう。
時には水田から出、水路にあるコンクリートの上に集まって休む光景にも遭遇。
なんと、5m程度の範囲に8羽が集まっている。重なり合うピンクの脚が、バレリーナの印象を一段と強調する。
コンクリートの上に立つと、いつも水の中に隠れている趾まではっきりと見える。この長い脚をのんびりと眺めながら、ふと、鳥類の脚では膝(?)が我々とは逆、前にではなく後に折れることに気づいた。ヒトで言えば、「脚を折る」ではなく「腕立て伏せ」の曲がり方。これまで何気なく見ていた鳥の脚、当然ながら「スズメもカラスも含め、これまで見た鳥すべて同じだ」と思い返しながら。
ノビタキ
4月の半ばころには、あちこちの草地や田の畔にノビタキがやって来る。この辺りは春と秋に渡りの途中に通り過ぎるのみで、短い間だけ見かける。今年は10日前後に見かけ初め、20日頃にはほとんど見ることが無くなった。
雌は秋の姿との違いが分からず、また離れていると肉眼ではノビタキと分からない。
しかし、雄は秋とはまったく異なる。頭が真っ黒、全身ほぼ黒の中に白と茶色が目立つので、距離があっても肉眼でノビタキがいることが分かる。
秋は雌より少し色が濃く見えるくらいで春ほどの派手さはないが、野原にコスモスが咲く頃に立ち寄って来てくれると、それはそれでなかなかの被写体となってくれる。
春、野原の真ん中にポツンと止まる目立つ”黒頭巾”は、野原に新しい季節の訪れを告げながら北上するのだろう。緑に染まり始めた野原の所々に枯れ残る冬の名残に止まり、春への変わり目を報せているようだ。
草地や畑を飛び回り、あちこち人が残した人工物にも、少しだけ自然の味付けを添えてまわる。
ときどき地面を見つめては、おそらく餌を見つけて地面に下りるのだが、
よく見ると、本当に”飛び降りている”。いや、ぴょんと飛び出し、地面に向かって落下するのを楽しんでいるように見えた。
もちろん、地面に着く前に翼を広げれば、いつでも好きなタイミングで軽々と空中に舞い上がることが出来る。
体重の軽い小鳥ならではと、羨ましいような気分になって来る。