草季想風

草に季節をたずね、季節に風を想う

トラツグミ

トラツグミは人が誰もいなくなった広場の真ん中で、ポツンと一羽だけでのそのそと動いている。まずは遠目から証拠写真を撮り、少しずつ近づいた。

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 別の場所での探鳥中、「トラツグミが居る」というので急いで向かった。ずっと見たいと思いながらまだ出会えないままのトラツグミである。電話では「公園の広場で人が遊んでいる横でも出て来る」と聞いたが、休日なので人がもっと増えたら何処かに隠れてしまうかもしれない、と焦る。「少しでも早く」と一区画でも高速を使い、何とか30分くらいで到着できた。

 高速道路の途中でポツポツと雨が降り出し「ああ、ついてないなぁ」とため息をつくが、ここまで来たら行くだけ行くしかない。幸い雨はそれ以上強くならなかったが、公園駐車場に着くと、雨を避ける人々が次々に引きあげて来ていた。そんな小雨模様の中、「まだ居てくれよ・・」と願いつつ、人の流れを逆流して広場へと上る。はやる気持ちを抑えながら、ツツジの生垣越しに双眼鏡で探す。「トラツグミは臆病だ」と聞いたことがあったので、広場の端っこ植え込みに近い所ばかりを探すが、そこにはツグミシロハラばかり。やはりなかなか望み通りには見つからないなと半ば諦めかけ、ふと公園のど真ん中に目をやると、ツグミくらいの大きさだが明らかにツグミではない色合いの鳥がのこのこと歩いていた。

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双眼鏡で覗くと確かにトラツグミだ。当たり前だがまさに図鑑通りである。やっとトラツグミに出会えた、と少し感動。それもこんなに近くでゆっくりと。

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大きさと形はツグミに似ているといえば似ている。動きもツグミに似るのかと想像していたが、動きはちょっと奇妙でツグミとはまったく違っていた。一度に2・3歩あるいて立ち止まり、屈伸するような蹲るような上下運動を繰り返す。そしてまた立ち上がり首を伸ばすと、首を曲げて力強く嘴を地面に打ち込む。

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首を曲げて地面をつつくというより、一回一回打ち込むという感じ。

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土の中から何かを掘り出して口に放り込んでいた。

 広場にはトラツグミと私だけ。10mくらいまで近づいてもトラツグミは全くこちらを気にする気配がなく、ひたすら歩き回っては地面をつついて回っていた。小雨と言っても雨粒が写真に写り込むほどではなく、カメラが濡れるほどでもない。来るときに溜息をついたが、結果的には雨が幸いした。人影は消え、他のカメラマンも居ない。

 まるでトラツグミの撮影会で、気兼ねなく移動してシャッターを切ることができた。せっかくなのでトラツグミの周りを360度移動し、背景を変え撮影することにした。

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野外ステージ?を背景のトラツグミ

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でもやはり、人工物の背景が無い方が似合っているかも。

 時折り通りかかるウォーキングの人影と話声えを嫌ったのか、最後に飛ぶ姿も披露してくれた。

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 やっと出会えて、その変わった動作も目の当たりにできた。鵺(ヌエ・妖怪)の声の主だと言われるトラツグミ。若い頃に目にした映画の看板に書かれていた「鵺の無く夜は・・・」という一説を思い出した。